お題「ひとりの時間の過ごし方」

(隣にいた河田さんが「はい、カワグチさん」と声をかけて両手を差し出した。するとカワグチさんは思わず差し出された河田さんの手にボールを譲る。

「誰にでもいいから」というのはカワグチさんには難しい。でも誰かにこわれれば、ぽんと渡してくれる。

河田さんが代わりにボールを他のメンバーにポウンと弾いて、またゲームが再開される。

カワグチさんは、ボールが来るたびにへへぇと笑ってあたりを見回す。ここはどうにも解決のしようがない。

でも河田さんが「はい」と手を差し出すと、カワグチさんは素直にボールを河田さんに渡す。河田さんがぽーんと弾く。

へへぇ、ぽーん。

繰り返すうちに、なんだかカワグチさんと河田さんのやりとりがゲームの儀式のように見えてくる。マエバシさんも、もうせかすこともない。

これはこれでバレエボールだ。そして、なかなかいいリズムだ。)

介護するからだ (シリーズ ケアをひらく)

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